『着物の悦び きもの七転び八起き』 林真理子(新潮文庫)
あの林真理子さんも、着物好きだったそうで、着物を始めたころの思い出とともに、着物を始めてみようかという方、着物を始めたばかりの方、着物が好きな方に向けて、思いのたけをつづったキモノにまつわるエッセイ本。
彼女の財とコネクションあってして、けっこうなコレクションをそろえ、楽しんでいらっしゃる風がよくわかり、面白く読める反面、ちょっとハイソすぎて参考にするにはハードルが高すぎると感じました(笑)。
彼女がこれを書いた頃(20年近く前)と、自分の年齢がどうやら近いことがわかり、人生いろいろ、と、失笑を含む思いをめぐらせました。20年前の着物(業界?)と今とで、どれほど違いがあるか、私にはわかりませんが、世の中の差分と照らしてかんがみるのも面白いかもしれません。
さて、本編最終部「着物は楽しい、むずかしい」と題したパート、1992年に「京都織物商業組合」での講演の中で、共感を覚えたテキストを備忘録までに残します。
・着物のお蔭で、私は人生が二倍にも三倍にも、豊かになったというふうに思っています。たかが着るものだとか、布きれだというふうには私には思えないのです。(中略)新しく仕立て上がった着物に帯を合わせて、帯揚げや、帯締めをあれこれ並べてみる喜びというのは、知らない人に話しても、お分かりにならないかも知れません。けれども、それを知った者というのは、生きてることの贅沢さに触れることができるのではないかと、私は確信しております。
・(前略)ところが、二十歳の本当にキレイな女の子でも光を失ってしまうのが着物です。そこに七十歳のおばあさんが現れて、本当に息を呑むような、実に心憎いばかりの配色で、袖口から見える長襦袢の色も着物に適っていてそのしぐさも美しい。するとその七十歳のおばあさんが二十歳の女の子に勝てるというのが、私は着物だというふうに思っております。
着物が好きな方にこそ頷けるけれども、きっと、そうでない方には、ピンと来ないところなんだろうところを、たいへんスパッと表現してくださってて、気に入りましたので引用。
着物を楽しむには、現時点、若干厳しい環境下にありますが、あきらめることなく、いろいろ模索し続けます。